前編:IPCC第6次報告書について

前編:IPCC第6次報告書について

 日本時間で8月9日の17時に、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「第6次評価報告書 第1作業部会報告書」を公表しました。IPCCの「第1作業部会」の報告書は、地球温暖化の自然科学的根拠をまとめたもので、第2・第3作業部会の報告書に先立って公表されます。また、この報告書は234名の研究者が14,000もの研究論文を調査したうえでまとめられた信頼性の高いものとなっています。

報告書のポイントは2つ

 今回の第6次報告書のポイントは大きく2つです。まず、産業革命前と比べた世界の気温上昇が、2021~2040年に1.5℃に達すると予測されたこと。そして何より、地球温暖化は人間活動によって引き起こされていることに「疑いの余地がない」と明記したことです。

 前回の第5次報告書(2013年)では「人間活動が原因である可能性が高い」という表現にとどまっていたため、大きな違いだと言えますね。次に、IPCCは地球温暖化の危険性をどのように指摘しているのかご紹介します。

気温上昇はどの様に起こるのか?

 まず、2000年以降の平均気温上昇は過去に前例がないほどの速さで進んでいます。温室効果ガスの排出と気温上昇の予測には5つのシナリオがあり、どの場合でも今世紀半ばまでは上昇を続けると考えられています(図1参照)。産業革命から現在までに平均気温が1.1℃上昇し、徹底した温室効果ガス排出抑制を行わない限り今世紀中に気温上昇が1.5℃・2.0℃に達してしまうことが明確に示されました。2040年までに1.5℃に達するという見解も示されているため、対策が急がれます。

図1:気温上昇の予測に関する5つのシナリオ
   引用:https://www.env.go.jp/press/109850/116628.pdf

気温上昇による影響:①海面上昇・異常気象

 気温上昇に伴い、熱波・大雨・干ばつ・熱帯低気圧といった極端現象が発生し、その原因が人間活動であるという見方がより有力になりました。

また、気温上昇は北極や南極の氷を溶けさせることにもつながります。北極ではなんと、すべての氷が解けるという事態が2050年までに1度は発生するという予測が報告されました。

地球温暖化は、海面上昇や海水の酸性化も引き起こします。排出量が非常に低く気温上昇も1.5℃に抑えられた場合(図2の水色「SSP1-1.9」)でも、2100年までに0.28~0.55メートル上がる可能性が高いとされています。また、海は二酸化炭素を吸収する性質があり、二酸化炭素の濃度が高まると水質が酸性になっていきます。そうすると海洋生物の命にも影響を及ぼし、ますます生態系の損失が懸念されます(図3)。

図2:シナリオごとの海面上昇予測
   引用:https://www.env.go.jp/press/109850/116628.pdf
図3:シナリオごとの海水酸性化予測
   引用:https://www.env.go.jp/press/109850/116628.pdf

メディアの反応は?

 今回の報告書公表を受け、世界のメディアや主要人物はどんな感想を抱いたのでしょうか?イギリスの大手新聞社「ガーディアン」は、公式Instagramで“地球の平均気温の上昇を1.5℃以下に留めるために残された猶予の時間で発行される、最後の報告書になるだろう”と表現しました(図4)。そして、この2人のコメントを紹介しています。

図4:「Guardian」公式Instagram (投稿日:2021年8月10日)

アントニオ・グテーレス国連事務総長

「この報告書は、これまで我々の惑星を破壊してきた化石燃料に向けた“死・終焉”の予兆に違いない。もし今我々が力を合わせれば気候危機を避けることができる。しかし、この報告書が明らかにしているのは、遅れをとる猶予も弁明の余地もないということだ」

ダグ・パー(グリーンピースUK 主任研究員)

「今の世界の指導者は、研究者たちから気候危機の重大さを警告された最初の世代ではない。しかし、この事態を無視する余地を与えられた最後の世代なのだ」

今やるべきこと

 気温上昇のリミット(1.5/2.0℃)を超えてしまう将来が現実味を帯びています。まず推進が急がれるのは温室効果ガスの排出抑制、特に化石燃料の使用停止です。そして、再生可能エネルギーへの転換が重要とされています。今回の報告書でも、既に行われているエネルギー政策によって前回報告書での予測から地球温暖化の促進抑制に成功している部分も見受けられるそうです。 また、大きな組織や政策だけがこの状況をよくすることができるわけではありません。私たちができることも実はたくさんありますし、政策決定には市民との合意も必要です。地球温暖化は私たちの生活に直結する問題である分、協力方法も身近なところにあるのです。

具体的な方法は次回以降紹介しますので、更新を楽しみにしていただけると嬉しいです!




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